TRANSLATE

AD | all

第324号  テサロニケ人第二2:1-12

使徒パウロの預言の解釈:「『不法の者』を引き止めているもの」は何か?

それはすでに取り除かれ、すでに働いていたが隠されていた「不法の秘密」はもう明らかにされたのだろうか? もし、そうであるなら…

さて兄弟たち、私たちの主イエス・キリストの来臨と、私たちが主のみもとに集められることに関して、あなたがたにお願いします。霊によってであれ、ことばによってであれ、私たちから出たかのような手紙によってであれ、主の日がすでに来たかのように言われるのを聞いても、すぐに落ち着きを失ったり、心を騒がせたりしないでください。どんな手段によってでも、だれにもだまされてはいけません。まず背教が起こり、不法の者、すなわち滅びの子が現れなければ、主の日は来ないのです。不法の者は、すべて神と呼ばれるもの、礼拝されるものに対抗して自分を高く上げ、ついには自分こそ神であると宣言して、神の宮に座ることになります。

私がまだあなたがたのところにいたとき、これらのことをよく話していたのを覚えていませんか。不法の者がその定められた時に現れるようにと、今はその者を引き止めているものがあることを、あなたがたは知っています。不法の秘密はすでに働いています。ただし、秘密であるのは、今引き止めている者が取り除かれる時までのことです。その時になると、不法の者が現れますが、主イエスは彼を御口の息をもって殺し、来臨の輝きをもって滅ぼされます。不法の者は、サタンの働きによって到来し、あらゆる力、偽りのしるしと不思議、また、あらゆる悪の欺きをもって、滅びる者たちに臨みます。彼らが滅びるのは、自分を救う真理を愛をもって受け入れなかったからです。それで神は、惑わす力を送られ、彼らは偽りを信じるようになります。それは、真理を信じないで、不義を喜んでいたすべての者が、さばかれるようになるためです。          テサロニケ人第二2:1-12


受難週にキリストがオリーブ山で最後のメッセージを語られたとき、弟子たちは

世が終わる時のしるしは、どのようなものですか(マタイ24:3)

と尋ね、キリストは騙しに対する警告、

惑わされないように気をつけなさい

を筆頭に挙げて返答されました。2020年のCOVID-19の世界的大流行以降、この世を席巻しているのは、あらゆる分野でこの騙しです。各国政府、大手製薬会社、大企業と深く関わる主流メディアによる偏向報道で世界中の大衆が惑わされていることは今に始まったことではありませんが、昨今、善も悪もこれまで伏せられていたことが次から次へと明らかにされてきています。

預言者ダニエルの時代、「終わりの時まで秘められ、封じられている」と御使いが告げた神の言葉がだれの目にも明らかになる世の終わりが今日の時代だからです。薬理学、精神医学、ワクチン医学、気候変動、グリーンエネルギー等々、「科学」と称し、レッテルが張られているほとんどすべてが、また、出版された研究の大多数が完全な詐欺であるという驚くべき実態がコロナ禍以降、ごく少数の代替メディアによって暴露され始めています

まさに、騙しを警告されたキリストの預言の成就です。


使徒パウロも終末末期の「騙し」について、警告の預言

滅びる人たちに対するあらゆる悪の欺き…それゆえ神は、彼らが偽りを信じるように、惑わす力を送り込まれます(10-11節、新改訳第三版)

を、テサロニケの信徒に書き送りました。パウロは冒頭に引用した預言の中で

不法の者…を引き止めているもの

の正体をあえて明かさなかったため、反キリスト「不法の者」と彼を「引き止めているもの」との関係が今日に至るまで不明瞭なまま、重大な警告が語られてきませんでした。

終末論に決定打を与える預言の解釈には大きく二通りの困難があります。解釈に幾つかの選択肢がある場合と、ほぼ確定的とみなされてきた解釈が、ヘブル語原典からの翻訳自体に誤訳、あるいは、再考の必要が判明した場合の二点です。

主の再臨を直前に控えた今日、警告に耳を傾け、これらの預言を正しく理解し、罠に陥らないように備えることは必須事項なので、今月は、まず前者の一例、テサロニケ人第二2章の「引き止めているもの」の解釈を、十九世紀の英国、州都リンカンの国教会司教クリストファー・ワーズワースの洞察に従って考察したいと思います。


パウロは『テサロニケ人への手紙第二』を「あらゆる迫害と苦難に耐えながら、忍耐と信仰を保って…神の国のため」に生きている信徒に宛てて、キリストが「力ある御使いたちとともに天から現れるとき」すなわち、主の再臨のとき、報いとして「安息」を彼らに与えてくださるようにといつも祈っている、と1章に記し、2章では、この主の再臨がどのような状況下で起こるのかを語りました。

すなわち、

まず背教が起こり、不法の者、すなわち滅びの子が現れ…主の日(主の再臨)

が到来するのです。しかし、ギリシャ語中性名詞を用いた「引き止めているもの」に関しては、パウロは「私が…これらのことをよく話していたのを覚えていませんか…あなたがたは知っています」と言うに留め、明記を避けました。このことは、パウロが言及していることは書簡には明記されていませんが、信徒はそれが何であるかをよく聞き知っていたということでした。むしろ、このような言及は信徒の記憶を紛うことなく鮮やかに蘇らせたに違いありません。果たして、それは何だったのでしょうか。


多くの選択肢のうち可能性が高い候補は、ローマ帝国、歴代のローマ皇帝、あるいは、御使い、最高位の御使いミカエルです。この世のすべての王国には守護天使がおり、天界では神の御使いとの間で絶えず戦闘が続いているとのダニエル書10章の記述から、これまで、この「引き止めているもの」はどの異邦人諸国の守護天使にも勝るイスラエルの主天使「ミカエル」である、との見解を私は採っていました。しかし、再度の考察によって、選択肢の筆頭に挙げた、当時中東一帯を支配していた「古代ローマ帝国」が、反キリストの出現を抑制しているとしてパウロが預言した力である、との結論に至りました。

ローマ帝国は不滅と信じられていましたから、ローマ帝国が滅び、反キリストが現れるとの預言が公になれば、パウロに時期尚早な迫害が迫ることは目に見えていましたから、パウロは文書上での明言を避けたに違いありません。ペテロも自らの書簡の中でローマへの言及を避け、代わりに「バビロン」を暗号として用いています。この見解を採っていた教父は少なからずいましたが、興味深いことに、二世紀カルタゴの神学者テルトゥリアヌスは、恐ろしい「滅びの子」が現れないように、古代キリスト教徒にはローマ帝国の存続を祈願する特別な祈りが要求された、と語っています。


次に、この「引き止めているもの」はすでに取り除かれたのか否かという問題が持ち上がります。歴史的に答えは明らかです。

古代ローマ帝国は西暦395年に東西に分裂した後、西ローマ帝国は476年に、東ローマ帝国は1453年にオスマントルコによって滅亡しました。パウロの時代に歴代のローマ皇帝によって所有されていたすべての領土は帝国崩壊後、他国の支配者たちに分割され、今日、ローマ帝国は存在していません。ですから、秘められていた「不法の秘密」はすでにはるか前に現れた、言い換えれば、反キリストは現れたことになります。パウロはローマ帝国崩壊から主の再臨まで、ローマに置き換わる力はこの世に引き続き存在すると預言しているので、多くの反キリスト、あるいは擬人化された組織、制度は今日にまで至っていると解釈することができます。

ローマ帝国崩壊前にコンスタンティヌス帝のキリスト教国教化に端を発し、すでに教皇制度が構築され、中世にかけて強化され、王座に着く皇帝がいないときには、教皇が王座に着くこともあったという史実は、「引き止める力が占有していた場所に、尊大で横柄な『滅びの子』が現れる」というパウロの預言を裏づけているのです。しかし、歴代の教皇は絶対的な神の栄誉を自らのものと主張したことはないとの見解があることも確かですが、司教クリストファー・ワーズワースは彼の時代の最新例として、1854年と1870年に二人の教皇が「すべて神と呼ばれるもの、礼拝されるものに対抗して自分を高く上げ(た)ことを挙げ、パウロの警告

しかし、私たちであれ天の御使いであれ、もし私たちがあなたがたに宣べ伝えた福音に反することを、福音として述べるなら、そのような者はのろわれるべきです(ガラテヤ人1:8、下線付加)

を引用しています。このパウロの警告は、キリストの再臨に至るまで続く「騙し」への警告で、終末末期に生きる私たちに語られているのです。


キリストが弟子たちにご自分の受難を予告されたとき、ペテロがそのようなことは起こらないと言って主を諫めたことがありました。そのとき、キリストはペテロの背後のサタンに向かって叱責されました。パウロの預言は、善悪が表裏一体の罪人である個々の教皇の善悪に言及しているのではなく、

バビロンから出よ(イザヤ書48:20他)

すなわち、教皇制度への警告なのです。

『一人で学べるキリストの啓示』補注4、5、7