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第300号  詩篇83篇

アラブ諸国とイスラエルの和解、中東和平

COVID-19の世界的大流行が拍車をかけた中東和平、果たして、アラブ諸国の混合要因、イスラエルの妥協がもたらすものは……?

神よ。沈黙していないでください。黙っていないでください。神よ。黙り続けないでください。ご覧ください。あなたの敵が騒ぎ立ち あなたを憎む者どもが頭をもたげています。彼らは あなたの民に対して 悪賢いはかりごとを巡らし あなたにかくまわれている者たちに 悪を企んでいます。彼らは言っています。「さあ 彼らの国を消し去って イスラエルの名が もはや覚えられないようにしよう。」

彼らは 心を一つにして悪を企み あなたに逆らって 盟約を結んでいます。エドムの天幕の民とイシュマエル人、モアブとハガル人、ゲバルとアンモン、それにアマレク ペリシテ さらにはツロの住民。アッシリアも 彼らにくみし 彼らはロトの子らの腰となりました。  セラ

どうか彼らを ミディアンや キション川でのシセラとヤビンのようにしてください。…彼らは言っています。「神の牧場を奪って われわれのものとしよう。」

私の神よ 彼らを 風の前に吹き転がされる藁のようにしてください。林を燃やす火のように 山々を焼き尽くす炎のように そのように あなたの疾風で彼らを追い あなたの嵐で 恐れおののかせてください。彼らの顔を恥で満たしてください。主よ 彼らが御名を捜し回りますように。彼らが いつまでも 恥を見て 恐れおののきますように。辱めを受けて 滅びますように。こうして彼らが知りますように。その名が主であるあなただけが 全地の上におられる いと高き方であることを。          詩篇83篇

この詩篇に記されているイスラエルの周辺諸国による反イスラエル同盟はヘブル史では一致するものがありませんが、あえて挙げるなら、ヨシャパテ王の時代、攻めてきたアモン、モアブ、エドムの大軍に無力を感じた王が国家をあげて主の御旨と救いを求めた歴代誌第二20章の出来事がこの詩篇の描写に一番近いといえます。そのとき、祈りを聞かれた神が「神の戦い」をご自身戦ってくださり、ユダ王国に奇蹟的な「主の救い」をもたらしてくださったのでした。

しかし、この描写にぴったり一致する出来事がヘブル史で起こっていないことから、この謎の詩篇には二通りの解釈が推し量られてきました。(1)詩篇2篇で描写されているように、「神の国」に反逆するこの世と神との間に天地創造以来続いている「霊の戦い」をより生き生きと描写したものとみなす(2)預言的洞察で書かれた詩篇で、終末末期に具現するとみなす

この詩篇では、神と神の民を憎む諸国家はイスラエル撲滅の陰謀を企てています。敵は、神への反逆と神の民撲滅の二点で完全に一致しているのです。過去、危機に瀕していつも祈り、神に拠り頼むことによって守られてきた経験は、このときもイスラエルの民に祈りを奨励し、冒頭から、必死な祈りが神に向けられています。

この詩篇の詠み手アサフは、神がヘブル史に介入され、悪を裁かれた例、―カナンの王ヤビンの将軍シセラによる攻撃、ミディアン人の侵略に対する勝利― を挙げ、平和と義の神の国が到来する情報をかぎつけるときまって、神の国の到来を妨害し、地を横取りしようとする邪悪な者たちが現れますが、彼らを神が一掃してくださったことに力点を置き、ここで再度のご介入を訴えています。

祈りの結びの言葉

こうして彼らが知りますように。その名が主であるあなただけが 全地の上におられる いと高き方であることを

には、神の戦いの究極的なゴールが反映されています。神が求めておられるのは敵、―真の神に反逆する者― の滅びではなく、真の神の存在と来たるべき神ご自身の支配を全世界が知ることです。しかし、この世が神を知るには神の裁きを通す以外にないようです。

四方八方からイスラエルを脅威にさらしている同盟軍は、ヨルダン峡谷の東側に広がる小王国の1.アモン、2.モアブ、3.エドム、4.エドムの西側のアマレク人、5.さらに東側に住んでいたイシュマエル人、6.南に居住のハガル人、7.西側の地中海沿岸のペリシテ人、8.地中海沿岸北方のツロ人、9.さらに北方のゲバル人、10.北東のアッシリア人で、十の諸国民の集まりです。

「ロトの子ら」、―アモンとモアブ― とともに対等に同盟を結んでいるアッシリア人は大アッシリア帝国への言及ではなく、おそらく台頭前のアッシリア人への言及とみなすことができます。

これら、かつての諸国民を今日のイスラエル周辺の諸国家に置き換えると、順に、1.北ヨルダン、2.中央ヨルダン、3.西岸地区(南ヨルダン)、4.南ヨルダン、5、サウジアラビアと湾岸諸国、6.エジプト、7.ガザ地区のハマス、8.ヒズボラと南レバノン、9.レバノン、10.シリアとイラクのクルド人となり、イスラエルを取り巻くアラブ諸国民になります。パレスチナ人は難民扱いされる前、もともとヨルダン王国を中心とした周辺のアラブ諸国民であったことから、上述のヨルダンに組み入れられることになります。

明らかなように、この詩篇の描写は今日の中東情勢を見事に描いていることから、この陰謀が戦争の形、「大中東戦争」で表面化し、しかし、祈りを聞かれる神の奇蹟的なご介入によって、反逆する諸国家の敗北に終わり、イスラエルに平安が取り戻されるに違いないと、推し量られてきました。もちろん、そのような解釈をしない人たちもいますが、もし、この解釈が正しければ、聖書が描く終末末期のシナリオでは、その後遅からず、中東にもたらされることになる出来事は平安どころか、「ゴグ・マゴグの戦い」ということになります。


ところが、2020年冒頭から聖書の預言解釈の予測をはるかに超えた事態が起こり始めました。COVID-19の疫病の世界的大流行です。大流行から六箇月経った9月でも、感染者数は世界的に増え続けています。一旦収束し始めるかのように見えた国々でも再燃が起こっており、中東のイスラエル、アラブ諸国でも予断を許さない状態です。

イスラエルでは9月17日に一日に五千人以上の感染者を記録したことから、正統派ユダヤ教のラビたちの大反対を押し切って、政府は、9月18日夕刻から始まるイスラエルの新年、28日の「贖罪の日」、10月3日から9日の「仮庵の祭り」までの三週間を厳重な都市封鎖に踏み切りました。ユダヤ教徒にとっては民事暦では最初、宗教暦では最後の「主の例祭」を祝う、家族にとっても、国家にとっても重要な公開行事がほぼすべて中止になり、大きな衝撃が起こっています。

しかし、この疫病が中東諸国に死活の危機感を蔓延させた一方で、最先端の医学、医療設備の整ったイスラエルでは、この新型コロナの研究や対策も進んでおり、死者数が非常に少ないことに効果が現れているようです。おそらく、アラブ首長国連邦との合意を皮切りに中東諸国の反イスラエル感情が急速に親イスラエルに変わった背景として、この疫病による死への恐怖が、全世界第八番目の強国としてこの8月、USニュースでランクづけされたイスラエルへの歩み寄りを促したことは十分考えられます。

そのほかの要因としては、サウジアラビアにあるイスラム教の第一と第二の聖地メッカとメディナに関わる問題で、イランで大多数のシーア派教徒とサウジアラビアほかのアラブ諸国のスンニ派教徒との間で争いが絶えず、アラブ諸国がイランの脅威にさらされている実情を挙げることができます。イスラエルの軍事力は世界最大といわれており、いろいろな脅威にさらされているアラブ諸国にとっては非常に頼もしい味方になり得るわけです。

西暦70年にローマ軍によるエルサレム崩壊後、世界中に離散していたユダヤ人が1948年、国連の承認により突如として国家樹立が許され、荒地の開拓を始めて以降まだ七十年余のイスラエルが、今日、卓越した農産業をはじめ、諸産業に適用できる高度な科学技術、工学を開発し、世界の最先端技術国にまで踊り出た快挙は人間わざではなく、神の選びの民として神ご自身の支え、守りがあったからでした。旧約の時代から、何度も国外離散、捕囚の経験を経て、民が散り散りになりながら、母国語ヘブル語が維持され、ユダヤ人独自の慣習が今日まで維持されてきたことは驚異です。

言うまでもなく、その背後には、神の言葉『聖書』が存在し、どんな苦境に置かれようと、民の拠り所となったからでした。神の約束

もし、あなたが、あなたの神、主の御声に確かに聞き従い、私が今日あなたに命じる主のすべての命令を守り行うなら、あなたの神、主は、地のすべての国々の上にあなたを高く上げられる。…次のすべての祝福があなたに臨み、あなたについて行く(申命記28:1-2)

は確かに今日、イスラエルに実現しているのです。


神がCOVID-19の世界的大流行を許されたことによって、詩篇83篇に登場するアラブ諸国の陰謀が未遂に終わり、和平合意へと方向転換することになれば、まさに、イスラエルの祈りが聞かれたことになります。

興味深いことに、すでにイスラエルと国交正常化合意下にあるエジプト、ヨルダン王国に次ぎ、アラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンが9月15日に合意に署名し、その後期待されているのは、サウジアラビア、オマーン、アフリカ諸国で、レバノンの大統領は8月半ばに、また、イラクの政治家も9月半ばにすでに合意を表明しているので、83篇の諸国民の大多数が合意に達したことになるのです。

8月4日に、ベイルートで起こった恐ろしい大爆発事故の責任がシーア派準軍事組織ヒズボラにあることが明確になって以降、レバノンからテロ集団の追い出しの可能性があり、同様に、イスラム原理主義組織のハマスも、ガザ地区から追い出されることになれば、イスラエルと周辺のアラブ諸国との間にしばしの和平がもたらされることになります。

預言を告知し、成就される神の人知を越えた奇蹟的ご介入が今、進行しているのです。

今日、アメリカを介して急速に導かれているアラブ諸国とイスラエルとの国交正常化は、ユダヤ人とアラブ人に共通の父祖「アブラハム」の二人の息子、「イシュマエル」と「イサク」の和解という観点からも、非常に大きな意義があります。

ラビ、マティヤーフ・グレイザーソンは、神がイサクの子孫(ユダヤ人)にご自身との永久の契約を継承させる一方で、イシュマエルの子孫(アラブ人)には物質的繁栄と子孫繁栄の祝福を約束された創世記17:9-20の聖句に、UAEとイスラエルとの和平合意がヘブル暦の5781年(2020-2021年)とともに暗号で織り込まれているのを発見しました。ラビはまた、イシュマエルとイサクが一緒にアブラハムを埋葬したことが記されている創世記25:9で、アブラハムの長子イシュマエルが、次男(しかし、神の約束の「ひとり子」)イサクの後に書かれていることに言及し、おそらくこの時点でイシュマエルが悔い改め、二人の間に和解が成立していたと解釈、ここに未来の出来事、―今日まさに起こっている神の御旨、兄弟部族の和解― が予示されていた、と語りました