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第278号   申命記11:8-20

人、動物、地の益のために命じられ、指示された神の戒め

現代医科学によって解明され始めている諸々の神の掟の背後にある大きな意義

あなたがたは、私が今日あなたに命じるすべての命令を守りなさい。それは、あなたがたが強くなり、あなたがたが渡って行って所有しようとしている地を所有するため、また、主があなたがたの父祖たちに誓って、彼らとその子孫に与えると言われたその土地、すなわち、乳と蜜の流れる地で、あなたの日々が長く続くようにするためである。…そこは、あなたの神、主が求められる地で、年の始めから年の終わりまで、あなたの神、主が絶えずその上に目をとどめておられる地である。もしわたしが今日あなたがたに命じる命令、すなわち、あなたがたの神、主を愛し、心を尽くし、いのちを尽くして仕えよという命令に、あなたがたが確かに聞き従うなら、わたしは時にかなってあなたがたの地に雨、初めの雨と後の雨をもたらす。あなたは穀物と新しいぶどう酒と油を集めることができる。また、わたしはあなたの家畜のため野に草を与える。あなたは食べて満ち足りる。気をつけなさい。あなたがたの心が惑わされ横道に外れて、ほかの神々に仕え、それを拝むことのないように。…あなたがたは、わたしのこのことばを心とたましいに刻み、それをしるしとして手に結び付け、記章として額の上に置きなさい。それをあなたがたの子どもたちに教えなさい。あなたが家に座っているときも道を歩くときも、寝るときも起きるときも、これを彼らに語りなさい。これをあなたの家の戸口の柱と門に書き記しなさい。 
申命記11:8-20(新改訳2017)

今月は、『申命記』、『出エジプト記』に記されている御言葉をいつも銘記するために主が指示された不思議な戒めに目を留めてみたいと思います。冒頭に挙げたくだりは、手と額にしるしを置いて、心に御言葉を刻みこむこの慣習をはじめとしたすべての戒めを守ること、すなわち、イスラエル人が「荒野からレバノンまで…ユーフラテス川から西の海(地中海)に至るまで」(申命記11:24)の領土を所有し、子々孫々に至るまで長寿を全うし、最強国となり、神の大いなる祝福を受ける十分条件が神への従順であることを明記しています。

神がモーセに与えられたイスラエルの律法(モーセ五書)、また、口伝律法と伝承には、論理的な説明が与えられていない戒めが多く含まれています。たとえば、七日ごとの安息日には休息すること、食前に手を洗うこと、豚肉や貝類、甲殻類を食べてはいけないこと、七年ごとの安息年にはイスラエルの地に作物を植えないで、休ませること等々があります。そのほかにも、神の民イスラエルが偶像崇拝の地カナンの住民たちが行っている慣習に一切関わらないために、あえて異教徒とは正反対の行為を指示した戒めもたくさんあります。
一見、神の定められた戒めには何の根拠もないように思えるものもたくさんありますが、実はそうではなく、すべてを最初から最後までご存じで、人をはじめ天地を創造された神だからこそ、科学的解明が何も知られていなかった時代、現代の人知をしのぐ驚くべき洞察で諸々の戒めが与えられたことが昨今、ますます明らかになって来ています。

現代科学は、週ごとの安息日の休息が、身体だけでなく、心/魂にも良いことを示しています。清潔にすることは、身体を諸々の細菌から守ります。豚肉を十分加熱しないで食べると、致命的な旋毛虫症を引き起こす可能性がありますし、魚介類の食中毒は古代では致命的でした。七年ごとに作物を植えない年を設ければ、地は養分を復元してより肥沃になりますが、土地を休ませる農法は今日も輪作などで応用されています。このように神は、人、動物、地の益のために、日常生活の詳細に亘る掟を命じられたのでした。

律法には、儀礼的戒めも含まれています。その一つは、冒頭に引用した箇所に記されている「手と額にしるしを置いて、心に御言葉を刻みこむ慣習」です。ユダヤ教徒の男性には、平日の朝の祈りの間中、聖句箱/フィラクテリーを身に着けることが要求され、この慣習が守られてきましたが、今日に至るまでその理由は明確ではありませんでした。しかし、この戒めにも驚くべき理由があることが研究、調査結果から明らかにされました。

ユダヤ人男性は祈りのとき、ヘブル語で「テフィリン」と呼ばれる、ストラップの付いた二つの黒い革製の箱を、一つは腕、もう一つは額に置かれるように、手と指の周りから腕、頭にかけて巻きつけます。手指に巻きつけられた革紐は幾度か接吻され、祈りが続けられます。聖句箱の中には、「律法/トラー」のうち『出エジプト記』と『申命記』からの四節、―シェマ・イスラエル(聞け、イスラエルよ)をも含む― が刻まれた羊皮紙の小さな巻物が納められています。
「祈り」を意味するヘブル語用語「テフィラ」から派生した「テフィリン」という用語は意外なことに、ヘブル語(旧約)聖書には記載されていません。しかし、このテフィリンを用いた戒めは、冒頭の『申命記』や「これをあなたの手の上のしるしとし、あなたの額の上の記念として、主のおしえがあなたの口にあるようにしなさい。力強い御手で、主があなたをエジプトから導き出されたからである」(出エジプト記13:9、新改訳2017)ほか、類似した四つの聖書訳で言及、説明されています。
ユダヤ教の口伝律法の威厳ある解説書『タルムード』は各戒めがどのように実行されるべきかを説明している「律法」の法的註解書でもありますが、この『タルムード』だけが実際に「テフィリン」の名に言及しているのです。


以下、シンシナティ医科大学の心臓血管健康科の准教授で、大学の医療センターの心臓専門医でもあるユダヤ人准教授が発見したテフィリンを身に着ける健康効果の記事の要約をご紹介することにします。

ジャック・ルビンシュタイン博士は、テフィリンの着用が、間接的に虚血事前調整の働き、―虚血現象に起因する損傷から組織を保護する役割― をすること、心臓発作の間、心臓を保護する結果になることを発見し、研究結果はアメリカの「生理学-心臓と循環生理学ジャーナル」のオンラインで発表されました。
ルビンシュタイン博士は、大シンシナティ市に住んでいる二十人のユダヤ人男性、―その内訳は、平日の朝ごとに、テフィリンを着用している九人と全く着用しない十一人で、年齢は十八から四十歳、みな健康な人たち― を登録しました。研究チームは、すべての参加者の基本的な情報を、早朝と、三十分間「テフィリン」を着用した後に記録し、参加者の血圧、心拍数、体温などの生存徴候を測り、循環するサイトカインと、単球の機能の分析のために採血をし、研究チームはまた、参加者のテフィリンを着用しなかった側の腕の血流も測定しました。

「サイトカイン」は、細胞から放出、分泌された小さなタンパク質で、心臓に炎症を引き起こし、否定的な衝撃を与えることがあり得る特殊なタンパク質です。
「単球」は、骨髄の中で生み出され、身体の各体内組織へと血液中を遊走する一種の免疫細胞で、血管外に出て遊走先の体内組織内でマクロファージ(貪食細胞)になり、微生物をとり囲み、殺し、また、体外からの異物を摂取し、死んだ細胞を取り除き、免疫反応を高めることが知られています。
すでに、幾つかの大集団調査から、非正統派ユダヤ教徒の男性に比べると、ほとんど毎日テフィリンを着用する正統派ユダヤ教徒の男性のほうが心臓疾患での死亡率が低いことが明らかになっていましたが、今回の研究で、十三歳以上のユダヤ人男性は、安息日と主要なユダヤ人の休日を除き、ほとんど毎日の原則で、朝の祈りのためにテフィリンを着用していることから、テフィリンの使用が、虚血事前調整の効果を起こすことに関連していると、結論づけられたのです。
➪テフィリンについて『一人で学べる出エジプト記』(文芸社)p106 参照

祈りの間、祈り手は座ったり立ったりを繰り返すので、腕の回りのひもを締め直さなければならないほどで、最初にテフィリンは利き腕ではない側の二頭筋と前腕のまわりにかなりきつく巻かれ、連続的におよそ三十分間着用されることになります。
ルビンシュタイン博士は、腕にひもを結びつけることと着用者がしばしば報告する不快感が「事前調整」の一形態として機能し、急性虚血再灌流障害(心臓の一区画から酸素が奪われ、再び酸素が与えられるとき、止まっていた血流の復帰に際して起こる障害)に対するかなりの程度の保護になっているかもしれないという点に気づいたのです。
「保護が起こる方法の一つは、痛みを通してで、痛みを感じるということは、実は事前調整の刺激なのです。我々は、長短に関わらず、テフィリンを着用している人の血流にかなり肯定的な影響が記録されているのを発見しました。心臓疾患に対する比較的良い結果に関連づけられたのです」、「毎日テフィリンを着用している男性たちのほうが、循環するサイトカインが少ない結果が得られました。血流は、毎日テフィリンを着用している男性たちのほうが良いというだけでなく、研究の一環として、たった一度着用しただけの場合も、すべての参加者の血流が着用後改善されたことが分かったのです」と、博士は語りました。

長い間、研究者は動物モデルで小さな心臓発作を誘発することによって、虚血事前調整の研究をし、それが、動物を未来に起こり得るもっと重い心臓発作から保護することが分かっていました。これと同じ原則で、人の身体の一部で部分的に血流がふさがれることが、身体のほかの部分で保護要因として機能し、起こり得る損傷を少なくする助けになることが、今回の研究で裏づけられたのです。
「人がいつ心臓発作に襲われるかを知るすべはないので、事前調整はほとんど不可能ですが、しかし、テフィリンがほぼ毎日の原則で着用されるなら、実際、保護を提供することになるかもしれないのです」と、博士は、聖書に基づいた明るい見通しを語っています。

この保護は、通常テフィリンを着用しない正統派ユダヤ教徒の女性には見つかっていません。女性は通常、そのような儀礼的戒めから免除されていますが、大部分の女性がイスラエルの例祭に参加していることから、女性に対しても、テフィリン着用への奨励の声は上がっているようです。しかし、中には、「異性装(男性の女装、女性の男装)」に対する聖書の禁止令を重視する人たちもいるようで、実際、この禁止令は、女性がタリート(ユダヤ教の礼拝時、男性が着用する布製の肩掛け)や、テフィリンを着用することを防止するものであると教える解説付き律法翻訳もあるのです。
しかし、大多数の人たちは、異性装の禁止令はスタイルや外観のために着られる衣類だけにあてはまるもので、テフィリンのような儀礼の項目に適用されるものではないとの見解に立っているようです。

最後に、シンシナティ大学の研究はまだ規模が小さく、長期に亘る研究はまだなされていないので、さらなる研究が必要であると、ルビンシュタイン博士は研究発表を締めくくりました。